「サウダーヂ」

やっと「サウダーヂ」を観ることができた。この映画はしばらくDVD発売はしないとのこと。その代わりに映画館上映を不定期に延長している様相のようだ。そのおかげで今時になって映画館で観れたわけだが、この「サウダーヂ」は私的空間で身内だけでまったりと見るより不特定多数の見知らぬ他者たちと一緒に多少緊張感が生ずる公共空間で観ることのほうがふさわしい気がする。
「サウダーヂ」は片田舎である山梨県甲府市を舞台に社会の底辺に生きる人々の生活をフィクショナルに描いている。土方の派遣労働者、怪しげな商売、外国人労働者、寂れた商店街、均質化した国道沿いといった現今の不況を説明するにうってつけな現象が一括りにしてこの映画に出現する。しがない契約職員でもある僕はこの社会派映画的なリアルとも言える世界に身近な感覚をもって共感してしまうのだが、この絶望的な状況に対して何かの解決先が現われるわけでもなく、怒りを積極的に表明しているわけでもない。登場人物は蟻地獄のような甲府盆地の盆地底に停滞したまま画面からフェードアウトする。だがこの停滞した空間のなかでも人間の営みによって何かが次々と確実に生起している。地元HIP HOPの熱気、儚い恋愛、同郷者の連帯感、ドラックの幻覚世界、炎天下の建設現場…。どれもこれも希望なんかまるっきりなく、それぞれの登場人物は不安を抱きかかえているというよりは、そのように生きるしかすべがないといった恰好だ。この映画はこの停滞感を制作側も共有し、停滞感の向こう側にある濃密な人間関係のかけらをひとつひとつ拾うことによって成り立っているかのようだ。どんなに絶望的になろうと人間同士のつながりさえあれば生きていける、そんな感じだ。タイ人ホステスに振られた土方の精司が無人の寂れた甲府市中心の商店街をさまよう時の幻想シーンが地元の若者(ヤンキーや暴走族など)によるカーニヴァルになっていたのだが、夢でもうつつでも甲府の現実のままで交錯しているところがとても切なく同時にこの感覚はとても新鮮であった。あと、HIP HOPグループのなかでちょっと場違いな感じだけれどメンバーから信頼されているメガネの者(田我流の隣りにいつもいる)が一番甲府っぽくて(失礼!)、この映画をよりリアルな感じにしている。最初はダサい感じだが、じわじわとカッコよく見えてくるのだから不思議だ。