2022-01-01から1年間の記事一覧
部屋の中でケイコが紙に何かを書いているシーンからこの映画は始まるのだが、日本語字幕では丁寧にもそのシーンに〈紙に書く音〉の文字が表示される。映画を観る時は補聴器を着けるのだが、ペンが走る小さな音には映画の流れに身を任せる状態ではほとんど拾…
『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』を観る。日本公開版では、この長いタイトルに「監督〈自己検閲〉版」がおまけとして付くのだが、鑑賞前は画面のどこかしらに多少の修正が入るくらいだろうとの軽い認識を持っていたのだが、全く甘かった。そ…
ロベール・ブレッソンはプロの俳優をキャスティングせず素人を起用することが多いのはよく知られた話である。『たぶん悪魔が』に登場する若者たちも非職業俳優であり、その無表情な顔や自然体というよりはなかばぞんざいなふるまいが五月革命以後のパリの空…
『LOVE LIFE』の世界には場面設定や現代描写(社会状況、時代背景等)、そして俳優の演技や台詞のそこかしこに「本当らしさ」のディテールが生真面目なまでにばら撒かれている。だが、その「本当らしさ」は現象としてのリアリズムに届きそうで届かないような…
ここ最近一週間のあいだに、3つの現代美術系の個展を観賞する。PERROTINのダニエル・アーシャム「31st Century Still Lifes(31世紀の静物)」、ShugoArtsの山本篤「MY HOME IS NOY YOUR HOME」、CAVE-AYUMI GALLERYの金村修「Sold Out Artist」。絵画とオ…
KAAT 神奈川芸術劇場のプロジェクト「視覚言語がつくる演劇の言葉」は、昨年に制作した短編映像作品『夢の男』のテキストをもとにした同タイトルの短編作品を引き続き制作している。オンラインで映像配信されているので、昨年の作品に続きYouTubeで拝見する…
神楽坂の名画座・ギンレイホールにて『クライ・マッチョ』を観る。1970年代後半の時代設定から始まるこの映画の冒頭は、オーナーらしき人物が待機している、牧場か農園のようなところにあるぽつんとした建物に向かって、一台のトラクターが流麗なカメラワー…
板橋区立美術館の館蔵品展〈 井上長三郎・寺田政明・古沢岩美の時代 ー 池袋モンパルナスから板橋へ 〉を観る。井上長三郎については以前にブログで書いたことがあるので、今回は寺田政明の作品について書いてみたいと思う。というのも、以前に観に行くこと…
以前にブログで取り上げた『コーダ あいのうた』は、今年のアカデミー賞で作品賞、助演男優賞、脚色賞の3冠に輝いた。日本では海の向こうの快挙を受けて、当作品の上映館の拡大とロングラン上映決定が続出したとのこと。ろう者としての僕は、ルビーの父役を…
表参道にあるエスパス ルイ・ヴィトン東京で、ギルバート&ジョージの1986年に制作された3連作、《 Class War , Militant , Gateway(階級闘争、闘争家、入り口)》を観る。照明を下げたやや薄暗い展示空間に入った際、すぐさま3つの壁面全てを覆い尽くす大…
家族のなかでただ一人、耳の聞こえる娘・ルビーが音楽の道に進もうとすることに戸惑う耳の聞こえない父と母。コーダの娘をもつ両親の登場人物は、以前の昔に観た『ビヨンド・サイレンス』(1996年・ドイツ)のろう者本人が演じた両親の2人の姿とオーバーラ…
早稲田松竹でケリー・ライカートの映画4本を立て続けに観る。4本とも掛け値なしに素晴らしかった。『リバー・オブ・グラス』(1994年)はデビュー長編というのもあるが、ライカートが評価されるきっかけになったと言われる長編2作目『オールド・ジョイ』…