美術

《 絵ごころでつながる ー 多磨全生園絵画の100年 》:国立ハンセン病資料館

多磨全生園の正門をくぐり、目的地へ最短ルートで行こうとした先に現れた三方向のある道標の1つに「宗教通り」という何やら聞き慣れない文字を見つける。遠回りになってしまうのもかまわずに行ってみると、人影がほとんどなく、雨が降っていたのも相俟って…

《 石川真生 私に何ができるか 》:東京オペラシティアートギャラリー

東京オペラシティアートギャラリーの《石川真生 私に何ができるか》を観る。沖縄出身の石川真生が複雑な歴史や文化を抱え込んだ現代の沖縄を精力的に撮り続けた一連の活動がコンパクトに紹介されている。本展のメインは石川が2014年から取り組んでいる〈大琉…

《 キュビスム展 美の革命 》:国立西洋美術館

満を持して、国立西洋美術館の「キュビスム展 美の革命」を観に行く。ここでも至極当然のように、セザンヌから始まっている。今年の夏に開催されたアーティゾン美術館の「 ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開」では、《サント=ヴィクトワール山とシャトー・…

《風景論以後|After the Landscape Theory》:東京都写真美術館

東京都写真美術館の地下1階で《風景論以後》の展覧会が催されているのだが、展覧会としての「ハレ」というよりかは、何の変哲もない日常的な風景としての「ケ」がひっそりと展示されている印象があり、そういう意味では地下の空間がふさわしいように感じられ…

マティス展:東京都美術館

大規模な回顧展としては約20年ぶりの「マティス展」の鑑賞を目的に、東京都美術館へ勇気をもって行ったのだが(混雑が苦手なので)、東京都美術館に入館するのも約20年ぶりどころが、それ以上ぶりのような気がする。当時何の展覧会を観たんだっけ?と必死に…

今井俊介 スカートと風景 / 東京オペラシティアートギャラリー

東京オペラシティアートギャラリーにて「今井俊介:スカートと風景」の展示を観る。会場内に設置されているディスプレイのインタビュー映像で、作家本人は絵画とデザインの境界の曖昧さについて語っている。ある時にふと何気なく目にした知人の揺れるスカー…

資本主義とアート:ダニエル・アーシャム/山本篤/金村修 [ PERROTIN , ShugoArts , CAVE-AYUMI GALLERY ]

ここ最近一週間のあいだに、3つの現代美術系の個展を観賞する。PERROTINのダニエル・アーシャム「31st Century Still Lifes(31世紀の静物)」、ShugoArtsの山本篤「MY HOME IS NOY YOUR HOME」、CAVE-AYUMI GALLERYの金村修「Sold Out Artist」。絵画とオ…

寺田政明の絵画 〈 井上長三郎・寺田政明・古沢岩美の時代 ー 池袋モンパルナスから板橋へ 〉板橋区立美術館

板橋区立美術館の館蔵品展〈 井上長三郎・寺田政明・古沢岩美の時代 ー 池袋モンパルナスから板橋へ 〉を観る。井上長三郎については以前にブログで書いたことがあるので、今回は寺田政明の作品について書いてみたいと思う。というのも、以前に観に行くこと…

《 Class War , Militant , Gateway(階級闘争、闘争家、入り口)》 ギルバート & ジョージ

表参道にあるエスパス ルイ・ヴィトン東京で、ギルバート&ジョージの1986年に制作された3連作、《 Class War , Militant , Gateway(階級闘争、闘争家、入り口)》を観る。照明を下げたやや薄暗い展示空間に入った際、すぐさま3つの壁面全てを覆い尽くす大…

クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]:東京都現代美術館

東京都現代美術館で「クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]」展を観る。僕は耳が聞こえないのだが、日常生活の中で常に音の存在を目の当たりにしている。聴覚的にはサイレントな状態ではあるが、視覚的にはノイジーな状態としてある。…

Joy ー PAINTINGS 2011-2021 髙橋淑人 退職記念展

先日、僕の母校である東京造形大の附属美術館に足を運んだのは、学生時代の4年間お世話になった髙橋淑人先生が2年前に退職し、コロナ禍でしばらく延期されていた退職記念展が開催していたからだ。様々な用事が重なり最終日になってやっと観に行けたのだが、…

鈴木春信 『梅折る美人』

たまたま目にした美術作品にその場で一目惚れするというような経験は過去に遡ってもあまりないような出来事だと思うのだが、僕の場合は一目惚れというよりは、しばらく経ってからその美術作品のところに立ち戻って(あるいは記憶を辿って)、漸次的に惚れ込…

《 千葉正也 個展 》東京オペラシティアートギャラリー

東京オペラシティアートギャラリーで開催中の《千葉正也個展》を観る。会場の展示室を全てつなぐ空中通路は千葉が飼っている亀を放し飼いするために木材で組み立てられている(どこかに居たかもしれないが、僕は不運にも亀に出会うことはなかった)。素材丸…

『夜光雲』 大山エンリコイサム

所用のあった川崎から南武線で引き返さずに京浜東北線で横浜に南下移動し、山下公園の入口の向かい側に建つ神奈川県民ホールにまで足を運んだその目的は、大山エンリコイサムの個展『夜光雲』を観るためであった。地下1階からの順路になっている、最初の同…

アンジュ・ミケーレ 「イマジナリウム」

柔らかなシルバーの支持体に、やはり柔らかな筆使いが軽やかなイメージを浮遊させている。白色の蛍光灯がホワイトスペースの天井や壁全体に反映した真っ白な空間のなかで、シルバーの支持体は背景の壁に溶解されかかっているが、丸の形を筆頭に大胆なストロ…

東松照明 「プラスチックス」

南麻布のMISA SHIN GALLERYへ東松照明の写真展を観に行く。展示タイトルは『プラスチックス』。3月に鑑賞した砂守勝巳の写真展で展示スペースを歩き回っている間、どういうわけか頭の片隅に東松照明のことが浮かんでは消えたりとずっとチラついていた。東松…

砂守勝巳《 黙示する風景 》

原爆の図 丸木美術館で開催中の(5/10まで会期延長されているが、現在臨時休館中)、砂守勝巳《 黙示する風景 》は、釜ヶ崎、広島、雲仙、沖縄の四つの地名が名付けられたテーマごとに構成された展示になっている。広島、雲仙、沖縄は無人風景の写真で埋め尽…

松本竣介 − 街歩きの時間 –

国道122号線を通り、交差点を右折して渡良瀬川に架かる錦桜橋に向かう時、急峻な山々に囲まれた桐生市の街全体がパノラマ風景のごとくフロントガラス越しに出現する。桐生市特有の風光明媚な地形は何回来ても素晴らしい。山の麓にある桐生市の大川美術館では…

続々・「表現の不自由展・その後」

あいちトリエンナーレ2019は閉幕一週間前にテロ予告や脅迫によって中止に追い込まれた「表現の不自由展・その後」展の再開に辛うじてこぎつけた。再開初日の10月8日は午後2回の入れ替え各30名の定員を設定し、再開以降は抽選によって入場を制限したほかに、…

続・「表現の不自由展・その後」

萩生田光一の文部科学相就任によって、《表現の不自由》は完成された。「あいちトリエンナーレ2019」への補助金(7800万円)を交付しないことを決定したからだ。「ガソリン缶を持って行く」の脅迫・テロ予告ファックスから河村たかし名古屋市長視察による《…

「表現の不自由展・その後」

あいちトリエンナーレ2019の企画展「表現と不自由展・その後」は政治的圧力や脅迫によって中止に追い込まれた。慰安婦をモデルにした『平和の少女像』の作品が最大のターゲットになったのは周知のとおりである。この企画はタイトルからもわかるように、2015…

ジュリアン・オピー

東京オペラシティアートギャラリーで「ジュリアン・オピー」展を観る。僕が美大生だった頃は、YBA(ヤング・ブリティッシュ・アーティスツ)の登場が世界中の美術界の話題を席捲していた。60年代生まれのダミアン・ハーストやダグラス・ゴードンらの(当時の…

絵と、/ 千葉正也

ビルの地下にあるgallery aMの縦に奥行きのある空間には、いくつかの四角柱が両壁に沿うようにして並立している。入り口から奥に向かってのスペースでは、その四角柱によってかろうじて2つの空間に分けられる感じだ。それぞれの空間に設営された厚いベニヤ…

『アジアにめざめたら』

東京国立近代美術館で『アジアにめざめたら』の展覧会を観る。金曜日は通常17時の閉館時間が20時になっているので、退社後の時間を利用して観に行ったのだが、全然時間が足りなかった。思いのほか映像作品が多く、さらっと観て途中で切り上げることがなかな…

ターナー

損保ジャパン日本興亜美術館の『ターナー/風景の詩』展を観る。印象派以上に印象的な晩年の代表的と言われる類いの作品はほとんど無かったが(おそらく門外不出レベルなのだろう)、それでもチラシで謳っているように100%ターナーの作品がずらっと展示され…

熊谷守一

自身の展示が終ったのもつかの間、年度末の慌ただしさに取り紛れるなか、なんとか東京国立近代美術館の『熊谷守一展』を観ることができた。何かの展覧会のなかで一点とか数点を観る機会は以前に何回かあったが、その時の印象というのはたいがいデパートの催…

二人展のパンフレット

【テキスト1】 オブジェクトとイメージがそこにある。オブジェクトが先にあるのか、それともイメージが先にあるのか。実体的なものと非実体的なものを分け隔てすることなく全てをひっくるめて視覚そのものだけを経験することから創造行為が始まる。リュミエ…

絵と物、線と棒、円と瓶

府中市美術館の『絵画の現在』展を観る。「現在」という言葉は時制としてのたんなる意味を剥ぎ取った時に絵画にふさわしい言葉なのだろうかと、ふと思いつきながら美術館に入る。エスカレーターを上り、入口近くまで進んでいくと右側と左側にスペースが分か…

児島善三郎/武蔵野

武蔵野の自然に惹かれて代々木から国分寺にアトリエを移した児島善三郎は自宅近郊の田園風景のフォルムを簡略化し、児島曰く「日本人の油絵」を創造するべく、大きくはないキャンヴァスのうえで装飾的表現がユーモラスな感じをもって展開されている。北斎ば…

《盛るとのるソー》

初台のICCで小林椋《盛るとのるソー》を観る。実はICCは初めてであり、入場料が無料であることに軽く驚いたのもあるが、東京オペラシティタワーの4階にあるICCの入口付近を頂上に上りと下りを山のようにして分けてあるエスカレーターを下りて右に曲がると3…