2020-01-01から1年間の記事一覧

『夜光雲』 大山エンリコイサム

所用のあった川崎から南武線で引き返さずに京浜東北線で横浜に南下移動し、山下公園の入口の向かい側に建つ神奈川県民ホールにまで足を運んだその目的は、大山エンリコイサムの個展『夜光雲』を観るためであった。地下1階からの順路になっている、最初の同…

戯曲『三文オペラ』

演劇に革新をもたらした劇作家として知られるベケットとブレヒトは、名前の語感が似ているのかわからないけれど、演劇に疎い僕のなかで両者の区別があいまいになることがたまに起こる(僕だけか)。その際、ベケットと言えば、『ゴドーを待ちながら』の作者…

『ある画家の数奇な運命』

ナチスの頽廃芸術展のシーンから始まる、本作はゲルハルト・リヒターの芸術人生をモチーフにしている。美術をかじっている者にとって、一画家の人生のターニングポイントと20世紀美術史の要点が入り組んだ見事な映画的構成に多少たじろいでしまう方も少なく…

『行き止まりの世界に生まれて』

家庭に居場所がない3人の若者がボードに乗ってロックフォードの寂れた街中を縦横無尽に駆け抜ける、流動性あふれる映像は3人のうちのひとりであるビンがスケーター仲間と一緒に走りながら撮っている。スケートボードが走り出す自由自在な空間が彼らの唯一…

『パブリック 図書館の奇跡』

壁一面ガラス張りの前で裸になって歌を歌い、突然パタリと倒れた男性の裸体は腹回りや脇下に多くの贅肉が付き、背中にタトゥーが彫られている。その人だけが持つ唯一無二の身体性が剥き出しになっている。場面転換時のインサートとして、レファレンスサービ…

アンジュ・ミケーレ 「イマジナリウム」

柔らかなシルバーの支持体に、やはり柔らかな筆使いが軽やかなイメージを浮遊させている。白色の蛍光灯がホワイトスペースの天井や壁全体に反映した真っ白な空間のなかで、シルバーの支持体は背景の壁に溶解されかかっているが、丸の形を筆頭に大胆なストロ…

東松照明 「プラスチックス」

南麻布のMISA SHIN GALLERYへ東松照明の写真展を観に行く。展示タイトルは『プラスチックス』。3月に鑑賞した砂守勝巳の写真展で展示スペースを歩き回っている間、どういうわけか頭の片隅に東松照明のことが浮かんでは消えたりとずっとチラついていた。東松…

『ジ・エンド』

ろう学校のあるクラスにて、4人のろう児がインタビューに受け答えすることからこの映画は始まる。4人のうち、アーロンだけが映画の最後までインタビューを受けることになり、アーロンの1987年から2046年までの人生に焦点が当てられている。過去から未来(…

砂守勝巳《 黙示する風景 》

原爆の図 丸木美術館で開催中の(5/10まで会期延長されているが、現在臨時休館中)、砂守勝巳《 黙示する風景 》は、釜ヶ崎、広島、雲仙、沖縄の四つの地名が名付けられたテーマごとに構成された展示になっている。広島、雲仙、沖縄は無人風景の写真で埋め尽…

『山の焚火』

《ネタバレご注意ください》 雄大な山々が連なるアルプス山脈を間近に眺めわたすことのできる山腹で人々から隔絶した生活を送る4人家族。最小単位の家族共同体のなかで耳の聞こえる両親と姉の3人が日常的に言葉を交わし合うなか、耳の聞こえない聾唖者の弟…

『フォードvsフェラーリ』

マット・デイモン演じる元レーサーでフォードから途方もない依頼を受けるカーデザイナー、キャロル・シェルビーがル・マン24時間耐久レースのレーサーとしてスカウトしたケン・マイルズは気性の激しい人物として描かれている。その一方、口を半開きにして間…

『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』

『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』を観る。個人的には、シャーリーズ・セロンをスクリーンでお目にかかるのは『ヤング≒アダルト』(2011)以来なのだが、誰もが認めざるをえない美女であるにもかかわらず、登場人物の役柄への万能ぶりが再び強烈…