2017-01-01から1年間の記事一覧

『ゴッホ 〜最後の手紙〜』

ゴッホの絵画が動きだし、ゴッホの謎に満ちた死の真相の解明へと物語と画面が相互にうねり続ける、奇妙な感覚を醸し出す映像は最新のCG技術とアナログな油絵の手法を組み合わせることで生み出されている。俳優たちが役を演じる実写映画として撮影された後に…

児島善三郎/武蔵野

武蔵野の自然に惹かれて代々木から国分寺にアトリエを移した児島善三郎は自宅近郊の田園風景のフォルムを簡略化し、児島曰く「日本人の油絵」を創造するべく、大きくはないキャンヴァスのうえで装飾的表現がユーモラスな感じをもって展開されている。北斎ば…

《盛るとのるソー》

初台のICCで小林椋《盛るとのるソー》を観る。実はICCは初めてであり、入場料が無料であることに軽く驚いたのもあるが、東京オペラシティタワーの4階にあるICCの入口付近を頂上に上りと下りを山のようにして分けてあるエスカレーターを下りて右に曲がると3…

『パターソン』

米ニュージャージー州パターソン。ウィリアム・カーロス・ウィリアムズが医者をやりながら暮らし、アレン・ギンズバーグが生まれ育った町として知られている。その町で同じ名前をもったパターソンはバスを運転するかたわら、事あるごとに秘密ノートに詩を書…

前衛詩人のような自画像

一見男性のように見えなくもないが、性別不詳な顔がA3を一回り大きくしたサイズ(B3?)の支持体をはみ出している。大きく描かれた鼻のうえに2つの目玉がぎょろりとしているのだが、見る者の視線と対向することなくわずかに逸らしてる。同サイズの支持体が…

ジャコメッテイ

国立新美術館で『ジャコメッテイ展』を観る。会場に入って最初のギャラリーでは細長い形と凸凹のある表面を有する唯一無二のスタイルになる以前のボリュームあるマッスに平坦な表面がそれぞれの幾何学的形態にはめ込められた初期の彫刻作品が数点展示されて…

ペシミズムな身体

土方巽の舞踏公演の記録映像、『肉体の叛乱』『疱瘡譚』のDVDを観る。強烈な身体がフィルムの粗い粒子を凌駕する、かなりショッキングな映像である。『肉体の叛乱』は1968年に日本青年館で公演され、中西夏之が美術を担当している。中西は『肉体の叛乱』の他…

『絵画は告発する』/板橋区立美術館

本展のポスターにも使われている、井上長三郎の《議長席》(1971)は真ん中を水平に明るい黄土色が上部に、暗い焦茶色が下部に塗り分けられている。画面の中心には大きな椅子に座り、前掛かりに書物らしきものを読んでいる人物が無造作な筆づかいで描かれて…

『エリザベス ペイトン:Still life 静|生』

原美術館で『エリザベス ペイトン:Still life 静|生』を観る。エリザベス・ペイトンは90年代半ばに起こった “新しい具象画” の中心的人物にもなったアメリカの女性画家である。抽象絵画がヘゲモニーを握っていた当時の美術界、主に絵画空間で存在感を失い…

『境域 −紫窓[SHI・SOU]−』

秋葉原と浅草橋の中間というどっちつかずな場所にあるオルタナティブ・スペース「Art Lab AKIBA」の倉庫を利用した空間は、夜の帳が降りきってしまった外部とシンクロするように内部も暗闇になっている。暗闇は奥にあるのだが、カーテンとか遮るものはなくド…

井上孝治の写真

戦後の福岡でカメラ店を営みながら、プロレベルを超えた写真を撮り続けたろう者の写真家を知っているだろうか。彼の名は井上孝治。その時はまだ一地方にいるアマチュアの写真愛好家にすぎなかった。だが、1989年に福岡の老舗の百貨店「岩田屋」が展開するキ…

この冬、いちばん静かな驚き。

訳あって、20年以上ぶりに北野武監督の『あの夏、いちばん静かな海。』を観ることになったのだが、新鮮な驚きが今になっても僕のなかにずっと響いている。北野は当初サイレント映画にしたかったらしく、この映画ではろう者のカップルを主人公にすることによ…