雑記

《 聴者を演じるということ 序論 》:北千住BUoYギャラリー 【ネタバレが含まれているのでご注意ください】

保険会社の上司と部下とおぼしき男女の2人が(架空の)お客さまを帰らしたあと、テーブルに着席する。テーブル上で繰り広げられる、たわいない会話劇は音声による対話(という形)で行われるのだが、演じている2人はろう者である。《 聴者を演じるということ…

『夢の男』2023年劇場版:KAAT 神奈川芸術劇場

KAAT 神奈川芸術劇場にて『夢の男』を観賞する。『夢の男』は《視覚言語がつくる演劇のことば》プロジェクトの作品として制作されている。藤原佳奈が執筆したテキストをもとにして、過去2年間(2021年/2022年)に同タイトルによるオンラインでの発表が行わ…

『夢の男』2022年バージョン:KAAT 神奈川芸術劇場

KAAT 神奈川芸術劇場のプロジェクト「視覚言語がつくる演劇の言葉」は、昨年に制作した短編映像作品『夢の男』のテキストをもとにした同タイトルの短編作品を引き続き制作している。オンラインで映像配信されているので、昨年の作品に続きYouTubeで拝見する…

メディアの中の「ろう者」像と「当事者性」について考える

以前にブログで取り上げた『コーダ あいのうた』は、今年のアカデミー賞で作品賞、助演男優賞、脚色賞の3冠に輝いた。日本では海の向こうの快挙を受けて、当作品の上映館の拡大とロングラン上映決定が続出したとのこと。ろう者としての僕は、ルビーの父役を…

日常化する緊急事態宣言の現下における個人的な雑感あれこれ

オリパラ期間中に新型コロナウィルスの感染者数が急拡大した現下、休日や余暇時に映画館や美術館に全然寄れなくなってしまった。最近まではマスクをして観賞するだけなら大丈夫なんじゃないかという自己判断のうえ、映画や美術などを観に行くことは日常生活…

『夢の男』 KAAT 神奈川芸術劇場

KAAT神奈川芸術劇場企画製作の短編映像作品『夢の男』をYouTubeで見る。全4幕構成になっているのだが、4幕すべて同じストーリーが繰り返されている。1幕は聴者の俳優(大石将弘)とろう者の俳優(江副悟史)が2人並んで立っている。聴者は音声、ろう者は手話…

戯曲『三文オペラ』

演劇に革新をもたらした劇作家として知られるベケットとブレヒトは、名前の語感が似ているのかわからないけれど、演劇に疎い僕のなかで両者の区別があいまいになることがたまに起こる(僕だけか)。その際、ベケットと言えば、『ゴドーを待ちながら』の作者…

ペシミズムな身体

土方巽の舞踏公演の記録映像、『肉体の叛乱』『疱瘡譚』のDVDを観る。強烈な身体がフィルムの粗い粒子を凌駕する、かなりショッキングな映像である。『肉体の叛乱』は1968年に日本青年館で公演され、中西夏之が美術を担当している。中西は『肉体の叛乱』の他…

smt

定禅寺通りを走る市内循環バスの「メディアテーク前」停留所で降りるとケヤキの広がる枝模様と太陽光が鮮やかに反射するガラス全面張りのファサードがいきなり出現する。停留所とファサードの間の距離は歩道分しかないのだが、歩道側のケヤキ並木がガラスの…

戯曲を読む

演劇を観ることなく戯曲を読むということはどんな体験なんだろうか。それも戯曲に出てくる役を演じるつもりもないただの一読者として。チェルフィッチュ主宰、岡田利規の「三月の5日間」(白水社)は、イラク戦争が始まった3月にライブで知り合った男女が…

「奇蹟」

久しぶりにとても濃い読書体験をする。中上健次の『奇蹟』である。中上の独特の文体は読みづらいのだけれど、一気に読み入る時が周期的にやってきて麻薬のような中毒性がある(もちろん麻薬の経験などあるわけないけど)。イクオ、シンゴ、カツ、タイチの「…

「みちのくの人形たち」

深沢七郎本人らしき主人公である老人のところに出稼ぎ労働者が唐突にやってくる。深沢は労働者のことを<このヒト>と表現している。<このヒト>という人称代名詞は現在流通している文にはほとんど出てきそうもない前時代的な気配をもよおし、ヒト科のヒト…

「山に生きる人びと」

宮本常一の「山に生きる人びと」を読む。すごく面白かった。ずっと前にドライブにはまっていた時期があって、秩父から雁坂トンネルを通って山梨に向うルートや小鹿野から群馬に向うルート、また奥多摩から山梨に向うルートなどをよくドライブした。道路を走…

マウジング2

前のブログで、指文字+手話よりもマウジング(音声なしの口型)を優先してしまうのがろう者の実際の状況であると書いたが、より正確に言えば指文字+手話を使う時でもマウジングがともなってしまう。つまり、指文字+手話、指文字を使わない手話(例「パソ…

マウジング

「佐藤」「甘い」「砂糖」「デザート」、4つの手話単語は同じである。指を伸ばした右手の手のひらを口元において回す。ろう者がこの同じ4つの単語を区別できるのは、口型(口の動き)と非手指動作、そして文脈の位置関係によってである。手話は同音異義語…

「ぶるうらんど」

〈ぶるうらんど〉とは、どうやら死後の世界のことらしい。世界的画家である横尾忠則が書いた4つの短い小説からなる「ぶるうらんど」という題名の短編集を読む。4つの短い小説と書いたけど、実際は4話ともストーリーが一話ずつズレた感じで連なった仕組み…

アナーキスト 大杉栄

衆議院選挙で政局が慌ただしく目まぐるしくなってきているが、新党ラッシュにはうさん臭さと白けが入り交じる。1人しか当選しない小選挙区制度(比例もあるけど)なのに、雨後の筍のように次から次へと新しい政党が誕生し、あげくは合流してしまうへんてこ…

レオ&写楽

2人のろう者の演出による2つの演劇の対照的な世界。 パリ在住トルコ人ろう者のレヴェント・ベシュカルデシュ演出「レオ&レオ」は音声はもちろん音楽、音響も使わない、ほぼ無音の状態であった。もう一方は、日本ろう者劇団員の数見陽子演出「迷宮の写楽。…

「ロンリーバタフライ」

ろう者の書いた小説を読んだのは、今までにはなく初めての経験だ。というか、ろう者が小説を出したのは日本では初めてのことではないか?この小説の著者は、女優またはタレントを本職にもつ岡田絵里香。彼女が映画「バベル」に出ていた頃から様々なメディア…

都知事選と斉藤和義

今日は都知事選挙の投票日だ。もう結果は見えているような気がする。これほど注目が集まらない、超低関心な都知事選は今までにはないんじゃないか?それでも僕は自転車に乗って近くの小学校へ投票しに行く。大震災後の普段の生活をまだ取り戻していない時期…