「亡霊怪猫屋敷」

この怪談映画の序盤には、深夜の闇に包まれた病院内を誰かが懐中電灯を照らしながら奥に向かっていく場面と、3人の訪問者が廃れた屋敷の門から庭を通り建物内に入っていく場面が出てくるのだが、どちらも引き気味の撮影でスローテンポになっている。この先に恐ろしい展開が始まるのだという予感をもよおさせる秀逸なカメラワークだ。この2つの場面は現代篇でモノクロ画面がさらに不気味な効果を発揮しているのだが、中盤からはがらりと変わって時代篇がまばゆいカラー画面で展開していく。モノクロの現代篇、カラーの時代篇という逆発想がなかなかのセンスで面白い。癇癪もちの家老のはちゃめちゃぶりがオートマチックに因縁がらみを引き寄せ、ついにはアクロバットな化け猫という異次元の動体が出てくる。総じてナンセンスなコメディ調になっているのだが(中川の恐怖演出はもちろん大真面目である)、現代篇の抑揚を下げたモノクロの不気味な雰囲気は何だったのかよと突っ込みを入れたくなる中川の演出は幽霊と同様に神出鬼没だ。ここぞという見せ場の映像表現がどの場面をとっても超技巧的で感心してしまう。特に家老がパニック状態を重ね心身とともにピークを迎えたときに最後のとどめとして幽霊が一挙に出現する恐怖イメージの集中可視化は凡人の想像を遥かに越えてしまう。しまいには人間界と幽霊界の拮抗した空間を別の外界から包摂するようにスクリーンいっぱいに引き伸された猫の顔アップがオーバーラップに出現するのだが、何故か宇宙的イメージが匂う。奇想天外なイメージのなか、怖いのか滑稽なのか未だにわからずにいるが、どちらをとっても最高レベルの演出であることは間違いない。超エンターテインメントである。猫耳が萌え萌えな化け猫老婆だが、顔面だけを見るとリアルにおぞましくて、もし小学生の時にこの映画をみたら一生トラウマに残るに違いない。さて、次は中川信夫の代表作であり恐怖映画の最高傑作と言われる「東海道四谷怪談」を見る予定だが、もう待ちきれない!