「ミッドナイト・イン・パリ」

パリの幻惑的な夜の帳のむこうからゴールデンエイジの超偉大な芸術家が次から次へと出現してくるアメージングなキャストショーには映画をまともに見ていられなくなるほど、マニアックな好奇心をそそられる。ヘミングウェイフィッツジェラルドピカソブニュエル、ダリ、レイなど(ロートレックの登場が一番「おおっ!」と思った)のそっくりさんたちの豪華な顔揃いのなかでもインパクト大だったのは、エイドリアン・ブロディ戦場のピアニストです)演じるダリだったな。ルックスに限らず雰囲気や仕草がここまで似てくるとは思わんかった。ピカソは外見はそっくりなんだが、台詞が一言、二言しかなくて始終一貫して神経質な表情を崩さないまま、むっつりする姿(これじゃあ、何人もの愛人をもったモテ男だとは信じられないな、ピカソのそっくりさんはおそらく演技が出来ない人だったんだろう)は自由奔放なイメージのピカソの像からはかけ離れている感じ。もっとひどいのはブニュエル。実際の本人も寡黙だったかもしれないが、映画のなかのブニュエルはエキストラそのまんまって感じで全然オーラがなくて狂気さが少しくらい内奥からにじみ出てきてもよかったのだが、全然皆無だった。ただの通りすがり。「忘れられた人々」「アンダルシアの犬」を撮った奇才ブニュエルはどこにいった?とまあ色々難癖を付けたけど、ゴールデンエイジのそうそうたる顔ぶれはなかなか愉快であった。ウディ・アレンは本当に古き良きパリの時代に想いを寄せる夢見るロマンチストなのだろう。だが、最後の一歩手前で、幻想的ロマンチズムに深入りしないことを選択し、現実の世界に戻る。そのきらびやかな夜のロケーションを充分に楽しみきったあと、懐古趣味に終わらない知的身振り(映画内では博識をみせびらかす大学教授を滑稽に描写しこき下ろしてた)を見せる計算的なアレン流映画的戯れを見ているとなんか贅沢すぎるぜ。でもまぁ、アレンの作品は純粋に映画を楽しめるふしがあるから嫌みはほとんど感じられない。そこがアレンならではの映画的魔術のゆえんだろう。ノスタルジックな非現実な世界から目を覚めたアメリカ人ギルは現地のフランス人花屋娘との恋におちるのだが、レア・セドゥーの魅力的なしぐさのおかげもあって、現実世界でのロマンスのはじまりが奇跡的にとても美しかった。やはりパリは雨が似合う。