クサナギシンペイ

昼過ぎに日本橋で用をすませた後、雨と風がひどくなったので真っ先家に帰ろうかと思ったが、クサナギシンペイの展示が今日までというのを思い出し、迷わず新川へ直行する。会場のギャラリーソラは初めてだったが、永代通りから右折したところでそれらしき建物を発見した時は、2階建てのプレハブ小屋という感じがして、行く前に持っていたイメージがはぐらかされたのだが、近くまで寄り中に入ってみると、新感覚的な建築物だと思い直される。

クサナギの絵画は下書きなどせず、直接イメージを支持体にぶっつけているかのようだ。あらかじめ作家の中に“エレホン”という名のイメージあるいは世界があって、それをもとに「どこでもないどこか」の光景を支持体の画層上で繰り広げている。クサナギシンペイさんはイラストレーターらしいのだが、イラストレーターを生業としている者がもつ商業という分野のなかでも通用するような自由闊達さがキャンバス上でもちらっと顔をみせるのだが、それもうまく純粋絵画という分野の中で昇華されているように感じる。というか、キャンバス上ではイラストレーターと画家の境界は消滅していかざるをえなくなるだろうし、今日の美術界ではデザインと美術、商業美術とファインアートの幅がグラデーションさながら行き来している状態になってしまっているのだから、美術界のなかの細かい肩書きは意味を為さなくなっていく。話を戻すが、クサナギの下地むき出しの上に繰り広げられる筆の動きは正直うらやましくなるほど、センスがよくて伸びやかであって、何事にも縛られること無く作家の世界を表現しているようだ。今までにない新しい美術をつくるというような声高な印象はなく、見る者が日常的にいろいろ感じている言葉にならないものを視覚的に引き出してくれるとともに絵画の奥にス〜ッと入っていく、インパクト薄だがそんな感じの素晴らしい作品であった。ほんのちょっぴり、かすかな不安感をともなって。