『グッドナイト&グッドライク』

『グッドナイト&グッドライク』を観る。『オーシャンズ』シリーズ主演のジョージ・クルーニーは今まで僕にとっては、セレブ界のお気楽プレイボーイというイメージしか持てないでいたのだが、彼が自宅を抵当に入れて製作費を捻出し、この映画を撮った監督であ…

語る者たち

ろう者であるアン•マリー監督は、“私たちの仲間”と呼ぶろう者のHIV感染者とその周辺のろう者のもとへカメラを持って会いに行く。ろう者はカメラの前でエイズと自分自身のかかわりを淡々と語る。ある者は健康だった頃はダンスに熱中していたと語り、別の者は…

『河内山宗俊』

28歳で戦病死した山中貞雄はわずか5年間の監督生活で、発表された作品は全26本とけっこうな多作である。しかし、そのうちまとまった作品として現存しているのは、『丹下左膳余話 百万両の壺』、『人情紙風船』、『河内山宗俊』のたった3作品しかない。その…

絵と、/ 千葉正也

ビルの地下にあるgallery aMの縦に奥行きのある空間には、いくつかの四角柱が両壁に沿うようにして並立している。入り口から奥に向かってのスペースでは、その四角柱によってかろうじて2つの空間に分けられる感じだ。それぞれの空間に設営された厚いベニヤ…

『緑色の髪の少年』

2018年の締めくくりに(といっても数本しか観れてないが)、ジョゼフ・ロージーの『緑色の髪の少年』(1948)を観る。この映画でハリウッドデビューを果たしたロージーは、のちに当時アメリカで吹き荒れていた赤狩りを逃れて、イギリスへの亡命を余儀なくさ…

『お願い、静かに』

柔らかな中間色とでもいえるような淡い画調に施された表層のうえを子供たちのやや消極的な表情が純粋無垢なまま浮遊している。自分には聞こえない教師たちの話し声が教室や体育館の外部からのつながりを持たないドメスティックな空間を自由自在に行き来する…

『アジアにめざめたら』

東京国立近代美術館で『アジアにめざめたら』の展覧会を観る。金曜日は通常17時の閉館時間が20時になっているので、退社後の時間を利用して観に行ったのだが、全然時間が足りなかった。思いのほか映像作品が多く、さらっと観て途中で切り上げることがなかな…

『寝ても覚めても』

『寝ても覚めても』を観る。柴崎友香の原作を先に読んでから観ることを考えていたが、計画的行動は苦手ではじめからうまくいくはずもなく、とにかく濱口竜介の映画の初鑑賞を済ませなければという気持ちが先行し、他の所用のあいまを見計らうようにして何の…

『タイニー・ファニチャー』

大学卒業後、あてもなく実家に帰ってきたオーラ(レナ・ダナム)は、出迎えすることなく地下のフォトスタジオに籠もったまま作品制作に取り掛かる母と妹(実の母と妹!)のスタイルの良い身体と対照的な身体をスクリーンに露出する。母から「家に住むなら私…

『グッバイ・ゴダール!』

『グッバイ・ゴダール!』を観る。どこかの映画館で手に取ったチラシの表紙からくる、妙な感じはあったものの、20代の僕にとって青春だったゴダールをフィリップ・ガレルの息子であるルイ・ガレルが演じるという魅惑的な組み合わせに無反応でいられるわけが…

『それから』

ホン・サンス監督の『それから』を観る。世界中から高い評価を受け、現在はもはや巨匠の域にはいりつつあるホン・サンスの映画は、恥ずかしながら初鑑賞である。初見の作品がモノクロであるのは、今後のホン・サンス体験に何かしらの影響が及ぶことになるか…

ターナー

損保ジャパン日本興亜美術館の『ターナー/風景の詩』展を観る。印象派以上に印象的な晩年の代表的と言われる類いの作品はほとんど無かったが(おそらく門外不出レベルなのだろう)、それでもチラシで謳っているように100%ターナーの作品がずらっと展示され…

スピルバーグの包容力

『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』を観る。政治の劣化が目に余りすぎる現在の日本に、ある意味タイムリーな映画であるが、それ以上にシリア攻撃を行ったトランプ政権に反旗を翻すような内容をハリウッドでさらりと当たり前のように製作するアメリカ…

熊谷守一

自身の展示が終ったのもつかの間、年度末の慌ただしさに取り紛れるなか、なんとか東京国立近代美術館の『熊谷守一展』を観ることができた。何かの展覧会のなかで一点とか数点を観る機会は以前に何回かあったが、その時の印象というのはたいがいデパートの催…

二人展のパンフレット

【テキスト1】 オブジェクトとイメージがそこにある。オブジェクトが先にあるのか、それともイメージが先にあるのか。実体的なものと非実体的なものを分け隔てすることなく全てをひっくるめて視覚そのものだけを経験することから創造行為が始まる。リュミエ…

二人展のお知らせ

神津裕幸 × 佐藤譲二 展 『無印、あるいはノイズのような』 ろう者の作家2人によるコラボ展示を開催いたします。 ご来場をお待ちしております。(17日18時からささやかなレセプションを行います) 2018/2/12(月・祝)〜 2/24(土)、 2/19(月)休み 11:00…

絵と物、線と棒、円と瓶

府中市美術館の『絵画の現在』展を観る。「現在」という言葉は時制としてのたんなる意味を剥ぎ取った時に絵画にふさわしい言葉なのだろうかと、ふと思いつきながら美術館に入る。エスカレーターを上り、入口近くまで進んでいくと右側と左側にスペースが分か…

『ゴッホ 〜最後の手紙〜』

ゴッホの絵画が動きだし、ゴッホの謎に満ちた死の真相の解明へと物語と画面が相互にうねり続ける、奇妙な感覚を醸し出す映像は最新のCG技術とアナログな油絵の手法を組み合わせることで生み出されている。俳優たちが役を演じる実写映画として撮影された後に…

児島善三郎/武蔵野

武蔵野の自然に惹かれて代々木から国分寺にアトリエを移した児島善三郎は自宅近郊の田園風景のフォルムを簡略化し、児島曰く「日本人の油絵」を創造するべく、大きくはないキャンヴァスのうえで装飾的表現がユーモラスな感じをもって展開されている。北斎ば…

《盛るとのるソー》

初台のICCで小林椋《盛るとのるソー》を観る。実はICCは初めてであり、入場料が無料であることに軽く驚いたのもあるが、東京オペラシティタワーの4階にあるICCの入口付近を頂上に上りと下りを山のようにして分けてあるエスカレーターを下りて右に曲がると3…

『パターソン』

米ニュージャージー州パターソン。ウィリアム・カーロス・ウィリアムズが医者をやりながら暮らし、アレン・ギンズバーグが生まれ育った町として知られている。その町で同じ名前をもったパターソンはバスを運転するかたわら、事あるごとに秘密ノートに詩を書…

前衛詩人のような自画像

一見男性のように見えなくもないが、性別不詳な顔がA3を一回り大きくしたサイズ(B3?)の支持体をはみ出している。大きく描かれた鼻のうえに2つの目玉がぎょろりとしているのだが、見る者の視線と対向することなくわずかに逸らしてる。同サイズの支持体が…

ジャコメッテイ

国立新美術館で『ジャコメッテイ展』を観る。会場に入って最初のギャラリーでは細長い形と凸凹のある表面を有する唯一無二のスタイルになる以前のボリュームあるマッスに平坦な表面がそれぞれの幾何学的形態にはめ込められた初期の彫刻作品が数点展示されて…

ペシミズムな身体

土方巽の舞踏公演の記録映像、『肉体の叛乱』『疱瘡譚』のDVDを観る。強烈な身体がフィルムの粗い粒子を凌駕する、かなりショッキングな映像である。『肉体の叛乱』は1968年に日本青年館で公演され、中西夏之が美術を担当している。中西は『肉体の叛乱』の他…

『絵画は告発する』/板橋区立美術館

本展のポスターにも使われている、井上長三郎の《議長席》(1971)は真ん中を水平に明るい黄土色が上部に、暗い焦茶色が下部に塗り分けられている。画面の中心には大きな椅子に座り、前掛かりに書物らしきものを読んでいる人物が無造作な筆づかいで描かれて…

『エリザベス ペイトン:Still life 静|生』

原美術館で『エリザベス ペイトン:Still life 静|生』を観る。エリザベス・ペイトンは90年代半ばに起こった “新しい具象画” の中心的人物にもなったアメリカの女性画家である。抽象絵画がヘゲモニーを握っていた当時の美術界、主に絵画空間で存在感を失い…

『境域 −紫窓[SHI・SOU]−』

秋葉原と浅草橋の中間というどっちつかずな場所にあるオルタナティブ・スペース「Art Lab AKIBA」の倉庫を利用した空間は、夜の帳が降りきってしまった外部とシンクロするように内部も暗闇になっている。暗闇は奥にあるのだが、カーテンとか遮るものはなくド…

井上孝治の写真

戦後の福岡でカメラ店を営みながら、プロレベルを超えた写真を撮り続けたろう者の写真家を知っているだろうか。彼の名は井上孝治。その時はまだ一地方にいるアマチュアの写真愛好家にすぎなかった。だが、1989年に福岡の老舗の百貨店「岩田屋」が展開するキ…

この冬、いちばん静かな驚き。

訳あって、20年以上ぶりに北野武監督の『あの夏、いちばん静かな海。』を観ることになったのだが、新鮮な驚きが今になっても僕のなかにずっと響いている。北野は当初サイレント映画にしたかったらしく、この映画ではろう者のカップルを主人公にすることによ…

牛腸茂雄

所用で六本木に行ったら、東京ミッドタウン1FのFUJIFILM SQUAREで牛腸茂雄の写真展をやっていたので、迷わず寄ってみた。牛腸は生前中に3冊の写真集を自費出版で刊行している。3冊のうちの《日々》、《SELF AND OTHERS》の一部と、カメラ雑誌『日本カメラ…